第9章 現世編(後編)
なんだろう、この感覚。なんだか見た事あるような、私はこの男を知っているような…?
「遊子!大丈夫か?」
「お兄ちゃん!」
「……いち、ご?」
「え…?」
思わず言葉が零れ落ちた。無意識に呟いた言葉に彼は振り返ったが、彼よりもゆうり自身が驚く。初対面の筈なのにまるで元々彼を知っていたかのように勝手に口が彼の名前を紡いだ。
「あれ、お兄ちゃんの知り合い?」
「いや…初対面、だよな…?」
「あ…えーっと、いちご…そう、苺食べたいなぁって思って!」
片手を後頭部に回し掻きながら誤魔化すように笑う彼女に一護は怪訝そうな目を向けたが、それ以上突っ込む事はしなかった。代わりに遊子の足元へ視線を落とすと浅くため息を零す。
「親父が、帰り遅せぇから見て来いってうるせーから見に来たんだけど…転んだのか。」
「えへへ…スーパーの袋も破れちゃったからどうしようかと思って。そしたらお姉ちゃんが声掛けてくれたの!」
「そうだったのか、ありがとな。」
「ううん、困ってる子が居たら見過ごせないから。君の妹…遊子ちゃん…かな?おんぶして貰える?荷物は私が持つよ。」
「いや、流石にアンタにそこまで迷惑掛けるわけには…。」
「でもほら、私のエコバッグ今使ってるしどうせここまで来たら乗り掛かった船だって。」
「あー…そっか、悪ぃな。」
一護は数秒悩む素振りを見せたがゆうりの厚意に乗る事にして笑った。
また、ドキリと心臓が高鳴る。笑った顔が海燕副隊長に良く似ていたから。
なんとも言い難い感情に唇を歪めると遊子を背負った一護は改めてゆうりと視線を合わせる。血色の良い白い肌、風に靡く綺麗な銀髪…同じ国の女とは思えない程に美女だと思った。
「まだ名乗ってなかったね。私は染谷ゆうり。しがない小さな商店で働いてるの。2人は?」
「俺は黒崎一護。んでこっちが妹の遊子だ。」
「よろしくね!」
「2人ともよろしくね。いつも遊子ちゃんがこんなに沢山お買い物してるの?」
「うん、うちお母さん居ないから私が皆のお母さん代わりなの!」
「こんなに小さいのに偉いね!一護は高校生?」
「あぁ、今年からな。アンタは…幾つなんだ?俺と同じくらいに見えるけど。」
「…女に年齢を聞くものじゃないぞ、一護くん。」
「なんだそりゃ。」