第7章 死神編【後編】
3年の任期を終えて遂に尸魂界へと戻って来た。変わった事といえば無事に阿散井、雛森、吉良が死神になった事と…白哉の妻である緋真がこの3年間の間で亡くなってしまったらしい。それ以外は特に大きな変化はない。以前と変わらぬ様子でゆうりは六番隊へ務めていた。
「白哉、これ駐在任務の報告書。纏め終わったから提出するね。」
「確かに受け取った。」
分厚い冊子となった紙の束を白哉に渡す。彼は相変わらず表情1つの変化も無くそれを受け取り、己の書類に筆を滑らせていた。ゆうりは白哉の執務机に手を置き、顔を覗かせる。
「…ねぇ、一緒に休憩しない?お茶用意するから。」
「己の執務を終わらせて居らぬ内から休む気は無い。先に休んで構わぬ。」
「どうせ時間内には終わるでしょう?ちょっと位良いじゃない。折角帰ってきたんだから、話そうよ。縁側で待ってて。」
ゆうりは彼の持っている筆をやや強引では有るが取り上げた。突如手の中からすり抜けて行った筆に白哉は一瞬眉を寄せたが、小さな溜息をついて手を机に置く。
彼が諦めたのを察したゆうりは筆を執務机へ戻し給湯室へ向かった。上等な茶葉をしっかりと急須で温め蒸してから湯呑みへ注ぐ。ついでに現世で購入した激辛の煎餅、自身には甘い落雁をお盆に用意し六番隊の縁側へと足を運ぶ。
「お待たせ。仕事お疲れ様。」
「…あぁ。」
雲が疎らに散った青々とした空を時々風に乗った桜の花びらが彩る。宙を見上げる彼の横顔は無表情で何を思っているのか分からない。ゆうりは隣に座り縁側の外へ足を伸ばす。
「……私が居ない間、大変だったでしょ。ごめんね、戻れなくて。」
「任務故、致し方ない事だ。ゆうりが謝る事では無い。」
言葉ではそう言うが、彼が口下手なのは良く知っている。感情を表に出すのが昔よりも下手になった事も。貴族としての掟を破ってまで娶った、彼にとって掟以上に大切な女性なのだ。辛くないなんて事は絶対に無い。
ゆうりが掛ける言葉に悩んでいると白哉は視線のみ彼女へちらりと向けた後、1口茶を啜ってからゆっくりと薄い唇を開いた。
「…緋真が亡くなる前、最後に1つ頼まれた事がある。」
「頼まれた事?」