第2章 棘
安土に来て1ヶ月がたっていた。
信長様との関係は変わらず、呼びだされれば抱かれる夜が続いている。
一度、断った時、私を天主に連れてこなかった女中さんが責任を取って、城を追い出されたと聞き、それ以来断れなくなった。
信長様は絶対的存在で、誰もが恐れている。
そんな信長様の寵姫と呼ばれる私は、愛のない、ただの籠の中の鳥だ。
とは言え、安土での生活にも段々と慣れて来て、今では武将達とも会えば挨拶を交わす程度には親しくなっていた。
また、籠の中の鳥らしく大人しくしているのは性に合わないので、針子の仕事も手伝わせてもらえるようになった。
大好きな布に触れて、針仕事をしている時は、自分らしくいられる唯一の時間で楽しかった。
そう、この日もちょっとした不注意だったのに。