第9章 爪痕
「んー暇すぎるー」
誰もいない部屋の中でしばらくじっとしていたけど、何もすることがなくて時間を持て余していた。
「刺繍道具でも、持ってこようかなぁ。着物を仕立てるのは無理だけど、刺繍位なら出来るし、時間も気にならなくなるよね。」
安静にしろと言われた手前、歩いてたら怒られそうだから、信長様が戻って来る前に取りに行こうと部屋を出た。
襖を開けると、ドシンっと何かにぶつかった。
慌てて顔を上げると、信長様が睨むように見下ろしている。
「貴様、どこへ行くつもりだ」
「あの、暇なので刺繍箱を取りに行こうかなぁって........」
「貴様は、大人しくするという言葉を知らんのか!もしやと思って来てみれば」
呆れと怒りの混ざった声で怒鳴られる。
「ごめんなさいっ、えっ?きゃあっ!」
急に身体が浮いたかと思うと、信長様の肩の上に担ぎ上げられた。
「やだっ、信長様下ろしてください」
「そんなに暇なら、ちょっと付き合え」
「やだ下ろしてっ、信長様っ!」
「良いのか?あまり大きな声を出すと皆が見るぞ」
意地悪そうに横目で私を見る。
「うっ....」
こんな状態、絶対見られるに決まってるけど.....
大人しく担がれ、行きついた先は、
「えっ?湯殿?」
「ちょうどいい、貴様一人じゃ入れんだろう。一緒に入れてやる」
「湯浴みするんですか?って、わー待って下さいっ、信長様っ!」
呆然とする私を他所に、信長様は自身の着物を脱いで、私の着物も手早く脱がし、抱き抱えると湯船へと入った。
私はとりあえず、泳ぐように、急いで信長様から離れた。