第69章 私の育った故郷では　〜信長様誕生日sp〜

「何でお辞儀？」

そんな事いつもしないのに…

「え？だってここは、信長様のお部屋でもあるわけでしょ？天主なんて中々来られる場所ではないし、やっぱり緊張するよ」

なるほど。
確かにここで葵と会う事はあまりないし、信長様がいるかもしれないからそうなるよね。


「でも良かった、顔色良さそうで」

葵はホッと顔を綻ばせた。

「うん。心配かけてごめんね。もう気分も良くなったから起き上がっても問題ないと思うんだけど、起き上がったら信長様に叱られそうだから」

「ふふっ、そうだね。あっ、あとご懐妊おめでとう。さっき出かけられる信長様を見たけど、ご機嫌なのが遠目でも分かるくらいだったよ」

「そうなんだ…」

さっきもそうだったけど、信長様はやっぱり喜んでくれてるんだ…


「どうしたの？なんか浮かない顔してる」

「あ…うん。あのね…」

2人目の妊娠に戸惑っている事を、私は葵に打ち明けた。

子供ができた事は嬉しいけど、いつかは二人目もって思ってはいたけど、やっと吉法師の子育てが落ち着いて仕事との両立ができ始めてきたばかりだったから、また周りに迷惑をかけてしまうかもしれない事や、吉法師の面倒を見ながら二人目の子育てと仕事を両立させられるのかとか、不安が勝っていて…、心からまだ喜べないでいた。


「って、勝手だよね。夫婦なんだからその…」

子供ができるようなことを日夜信長様としているわけで、それなのに戸惑ってるなんて、責任感がないにもほどがある。


「乳母や侍女を新しく雇ってもらったら？アヤが自分で可能な限り子育てしたいって言うのは理解してるけど、このままだとまた吉法師様の時みたいに無理するのは目に見えてるし…、アヤの故郷ではこんなになんでも自分一人でやらなければいけない感じなの？」


「うーん…」

葵の疑問はよく分かる。
私は織田信長様と言う、言わば天下人の正妻で、その人の後継者となる子どもを育てているわけだから、本来なら乳母や侍女、女中と何人もの使用人がついてもおかしくない。今や三人の母となったお市は、沢山の女中がその子育てをサポートしてくれてるって言っていた。