第67章 信長様は構われたい
「早くしろ」
「はい」
ちゃぷんと、桶に手拭いを浸し絞る音が耳に届く。
「首から拭きますね」
「ああ」
奴の心の臓の音が今にも聞こえそうな程の静寂の中、手拭い越しにアヤの細い指先を感じ、心地よさが広がっていく。
肩から腕、胸、腹と拭き終わると、奴の動きは途端に止まった。
(……ん?ああ、下帯を取る事を躊躇っておるのか?)
「どうした、それ(下帯)も取って良い。シンや吉法師は裸で洗ってやっておるだろう?」
「っ、それは、シンは元々何も着てませんし、吉法師は赤子ですっ!もう、今日の信長様は一体どうしたんですか?こんなのまるで…」
そこまで口にして、アヤはハッと口をつぐむ。
「まるで、なんだ?」
そこまで言っておいて、何でもないではすまさぬ。
「まるで、シンや吉法師 に嫉妬してるみたいです」
軽く睨み見れば、観念して想いを口にするアヤの顔にただ見惚れてしまう。
「そうだ。俺は嫉妬している」
「あっ、」
アヤの腕を引っ張り俺の胸に抱き寄せると、カリッとやつの耳を噛んだ。
「んっ!」
耳の弱いアヤは肩を窄めて悩ましげな声を漏らす。
「やっ、信長様」
「貴様が、他の男の着物を大切に抱きしめるのも、シンを抱きしめるのも、吉法師 に頬ずりするのも堪え難い」
「なっ!そんな事…ん、着物は、仕事ですし、シンも吉法師 も自分で体を洗って拭く事はできません。んんっ、もう、耳、やぁ、ぁ」
俺の上で耳を責められ身悶えるアヤ からは甘い香りが漂い、俺の理性を跡形もなく奪って行く。
(もう少し苛めてやろうと思っていたが、俺が限界だな)
抱きたい欲が限界を超えた俺は、アヤの耳元に囁きかける。
「アヤ 、俺の下帯を緩めろ」
「……っ!」
ここ最近では一番の動揺を見せたアヤは、それでもコクンと頷くと、ふらふらと体を起こし俺の下帯に手をかけ紐を解いていく。