第67章 信長様は構われたい
俺の最愛の女、アヤは忙しい。
とにかく一日中働いていると言っても過言ではない。
今日も…
「アヤ、どこへ行く?」
早足で針子部屋から出てきたアヤ に声をかけると…
「あっ、信長様、注文を頂いてた着物が仕上がったので、呉服屋さんに届けに行ってきます」
「そうか、気をつけて行ってこい」
俺に愛らしい笑みを向けそう答えるアヤを抱き寄せ、奴の額に軽く口づける。
「…っ、はい」
頬をわずかに染め、アヤ は男物の着物を大切そうに両手で抱えて出かけて行った。
「なぜあの様に大切に持っておる?」
仕事なのだから、男女の着物問わず仕立てるのは当たり前だと分かっている。だがこの時は、俺以外の男が着るであろう着物を大切そうに抱えるアヤ に少しモヤッとした気持ちが生まれた。
そして昼…
軍議が終わり中庭へ出ると、愛犬シンといるアヤを見つけた。
「アヤっ!」
俺が声をかけると、アヤ は忙しいのか俺に向かって笑みを作り手を振るのみ…
(なぜ、すぐさま俺の元へ走って来ぬ?)
僅かばかり待ってみたが、奴が俺の元へと来る気配はない。
アヤに触れたい俺は仕方なく草履を履きアヤ の元へ。
「一体何をしておる?」
「今日は天気も良いし暖かいのでシンの体を洗って今拭いてるんです。わっ!こらっシン動かないでジッとしてて」
きゃっ、と声を上げながらアヤは楽しそうにシンに抱きつき体を拭いていく。
「……そんな事をせずとも、放っておけば自然と乾くであろう?」
またしてもモヤモヤとしたものが胸の内に広がり、俺はアヤをシンから引き剥がし腕の中に閉じ込めた。
「っ、もう信長様っ、それではシンが風邪をひいちゃいます」
閉じ込めた温もりは簡単に俺の腕からすり抜け、再びシンを抱きしめ手拭いで体を弄っていく(注: アヤ は拭いているだけ)
目を閉じてうっとりと体を弄られている(注:拭かれている)シンに苛立ちが募るが……