第65章 秀吉のぼやき⑤〜番外編〜
「いや、気にするな。吉法師様に会えて俺も嬉しかったしな」
「でも、今朝安土に戻ったばかりでしょ?ほんとごめんね」
申し訳なさそうに謝りながら、俺から吉法師様を受け取るアヤはやはり以前よりも痩せていたが、母の優しい雰囲気も加わり綺麗になっていた。
「予行練習ができて良かったな、秀吉」
アヤの背中越しに、信長様はニヤリと声をかけてきた。
「もう、信長様っ!葵も巻き込んじゃってごめんね」
「気にしないで。思いがけず秀吉様と逢瀬ができたし、私もアヤの子育ては手伝いたかったから。これからも頼ってくれると嬉しいよ?」
「葵、ありがとう」
「ふぎゃぁぁっ!」
吉法師様の泣き声が本格化してきた。
「わゎっ、もう限界みたい。二人ともごめんね。ありがとう。また今度ゆっくり」
「アヤかせ」
泣き喚く吉法師様を信長様がアヤの手から取り抱き上げると、泣き声が少しおさまった。
「今の内に帰るぞ」
「はい」
片手で軽々と吉法師様を抱っこし、もう片方の手でアヤの手を繋いだ信長様に、俺はまたしても男らしさを感じ、やはりこの方には敵わないと痛感した。
「俺達はもう少し散歩して帰るか」
「はい」
やっと繋げた葵の手をぎゅっと握りしめた。
お二人が気になりチラッと後ろを振り返ると、道の真ん中だと言うのに、人目を憚らず吉法師様を抱っこしたままアヤに口づけている最中で、町の者達も見慣れてしまったのか、誰も気に留めてはいないようだった。(早く帰らなくていいのだろうか?)
俺の目には、以前の様に仲睦まじいお二人に見えるが、こうなるまでには色々とあったのかと思うと、遠くから咳払いをして風紀がどうのと言う気にはなれなかった。