第60章 花屋夫人
「うーー痛い」
私は頬を抑えながら、信長様を睨む。
「何が言いたい」
信長様は、バツが悪そうに私を見る。
「痛いことは嫌だって言ったのに....なぜか頬が痛い........です」
「なんの事だ」
信長様は、シラを切り通すつもりらしい
「信長様........この間言いましたよね?痛みは与えないって.........」
「それがどうした、言葉通り、毎晩時間を忘れるほどに愛してやっておるだろう」
もはや逆ギレ気味?
「じ、時間は忘れてたけど、思い出しました!忘れるなんてできません、この頬についた噛み跡を見たら!!」
頬に当てた手を離して、信長様に噛まれてつけられた歯型を、信長様に見せた。
ぶっ!
それを見て、今度は吹き出す始末。
「わ、笑いましたね!?一体誰のせいでこんな跡がついたと思ってるんですか!」
そう、昨夜、既に意識を手放しそうな私の頬に、信長様がガブリと噛んで来て、白み始めた世界から一瞬で連れ戻された。
手加減はしてくれたっぽいから、少し痛かったくらいだけど、「まだ早い、もっと俺を感じろ」とか何とか言われて、その時はボーッと再び与えられた快楽に持ってかれてしまって.......
朝起きて頬に違和感を感じて鏡を見て、ヒィーーーってなった。
歯型、初めてつけられた。痛くないけど(信長様には痛い痛いと言ってるけど)....こんな顔でこれから何日も過ごすこっちの身にもなってほしい......。
まだキスマースの方がましだ。
「ふん、歯型くらいでうるさい奴だ。夫の愛を全身で受け止めるのも妻の務めだ、きさまが俺のものだと皆に分かってちょうど良い」
開き直った!
「なっ、こんなにくっきりと大きな歯型をつける旦那様なんて聞いたことありません!」
「噛み付きたいくらいに愛らしい貴様が悪い。その頬が噛み付いて欲しいと俺を煽ってきた」
「なっ、...........」
愛らしいと言われたのは嬉しい。でも、頬は煽ったりなんかしない。
「それに、たまたま歯型が付いたのがそこだってだけだ、他の場所に歯を立てても貴様は悦んで声を上げておる」
ニヤリと笑うと、指でピンっと、私の胸の先を着物越しに弾いて来た。