第56章 恋の指南
目の前には、肌蹴た着物から覗く逞しい信長様の胸板。
「大好き」
そっと触れて口づけると、ぎゅっと抱きしめられた。
「っ、起きてたんですか?」
「これだけ腕の中でわーわー独り言を言っておれば誰でも起きる」
「ごめんなさい」
(うー、この独り言を言う癖なんとかしないと)
「そう言えば、今夜も寝巻きを着せてくれたんですね。ありがとうございます」
夏は暑いからそのまま気を失うと裸のまま朝を迎えることも多かったけど、今の時期は風邪をひかないように、信長様が寝巻きを着せて寝かせてくれているらしい。
「ふっ、気にするな。貴様の身体を隅々まで眺められる絶好の機会だからな。これは気に入っておる」
「な、なっ、なっ、...............」
感謝していたのにそんな事を!?
意識を失っているとはいえ、あれこれ見られていると思うと、耐えられない。しかも、見るだけじゃなさそうだし........
「うーーーもう意識は絶対に失いませんから」
「ふっ、無理な話だな」
「じゃあ、もうこー言う事をしません」
「阿呆か、夫婦となった者同士がその営みを怠るとは法に反する」
「そんな法はありません、もうっ、暴君」
「かまわん、貴様を手に入れる為ならどんな法も捻じ曲げる。俺は貴様が全然足りんのだ」
「.............っ」
悔しいけど嬉しくて、もうこれ以上反論できなかった。
『貴様が足りん』
この魔法の様な言葉を、ずっと言ってほしい。
私をずっと見て、いつまでも求めて欲しい。
だって、私はずっとずっと信長様が好きで、大好きだから。
いつまでもあなたを感じさせて欲しい。
「分かったらもう寝ろ。寝んならもう一度抱くぞ」
「っ、それはだめっ、お、おやすみなさい」
それは困るから、慌てて信長様の胸に頬を寄せて目をつぶった。
「ふっ、貴様は本当に飽きんな」
髪を梳きながら頭を撫でられるとすぐに目蓋が重くなってきた。
床上手の道のりは長そうだけど、これからも頑張ろうと自分に誓いながら、眠りに落ちた。