第55章 怪我の功名
「そんなに泣くな」
「うぅ〜」
半信半疑とはいえ、もしかしたらと思ったのも本当で。ついさっきまで愛おしく感じていたお腹に手を当てても生理の痛みだけなんて.........
昨日気持ち悪かったのも、生理の時よくなる事で、そんなことも忘れて勘違いするなんて。
急に悲しくなって、朝餉に行くことも出来ずに信長様の膝の上でずっと泣いていた。
「子はその内授かる。今はまだその時期ではなかったと言うことだ」
私を優しく抱きしめながら、背中をポンポンと撫でてくれる信長様。
「ううっ、でも....」
「俺たちは子を持つ事に対して何も知らん。夫婦となったが、親になる準備は出来てはおらんのやも知れん。今回の事は、知識をつける機会を得たと思えば良い」
「......信長様.....うぅ、そうですね。私たち....何も知らなくて.....う〜」
(本当に、妊娠については無知だと分かった)
「薬の力を借りず月のものが来たと言う事は、子を作る身体へ準備を始めたと言う事だ。後は自然に任せよ」
「は.....い、グスッ」
「それにまだ子はいらん。貴様を抱きつくせておらんからな」
ちゅっとおでこに口づけると、いたずらな顔で覗き込んできた。
かぁっと顔に熱が一気に集まる。
「だ、抱きつくす日は、いつ来ますか?」
既に抱きつくされ感満載なんですけど....
「さぁ、永遠に来ぬかもしれぬな」
「え.......っ」
楽しげに笑う顔に見惚れる間も無く唇が重なった。
宥める様に唇を舐めると、優しく食まれ、割り込んだ舌に舌を絡め取られた。
「..ん.........、は.....っん」
悲しかった気持ちは、段々と甘い痺れへ変わって行き、悲しみの涙は、口づけの息苦しさで溢れる涙へと変わった。