第42章 それぞれの思い
「何だ?これからって時に」
元就は忌々しそうに言葉を吐くと、私の両手首をベッドの柱に括り付け、ベッドから飛び降りて狭間から外を覗いた。
「ちっ、やっぱり騙されなかったようだな」
壁を蹴って苛立ちを露わにする元就がこっちへと戻ってきた。
「アヤ、残念だが時間切れだ」
「な....に?」
「信長が来やがった。あの木瓜紋は間違いねぇ、奴の旗だ」
「信長様が.....」
何度も、何度も心の中で叫んだ人が本当に?
「っ、...うっ...信長様」
暗闇に、一筋の光が差したように冷えた心が温度を取り戻して行くのが分かった。
「面白くねぇな、そんなに奴が好きか」
私の横に座って元就が険しい顔で見下ろしてきた。
「好きだよ。大好きだよ。信長様が大好きな.....うっ」
またもや噛みつくように口を塞がれ、両胸を荒々しく揉まれた。
「お前はこれから俺だけを見て生きてくんだ。ここで少し待ってろ、さっさと奴を殺して続きをしてやる」
そう言うと、彼は私をベッドに縛り付けたまま外へ出て行った。
「な...に言って」
酷い事をされて、憎むべき相手である元就の目はあまりに切なげで淋しげで、私は怒りの持って行く場所を見失っていた。