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恋に落ちて 〜織田信長〜

第41章 思惑 〜元就編〜



よく喋る割に、必死に手拭いを巻きつける手はふるえていた。俺が怖いくせに、気丈に振る舞うその姿にまたしても心を持ってかれる。

「本当に針子やってんだな。今日も反物屋に行く途中だったのか」

「あっ、はい。私の唯一の取り柄と言うか、他には何も出来ないし、とても好きな仕事なんです」


「そうか」

本当に好きなんだな。
手の震えが止まって、その目はきらきらとしだした。


「終わりました。これで血は止まると思いますけど、ちゃんと手当てしてもらって下さい、一体なんでこんな怪我を」


信長の仕掛けた罠だ。
お前を守るためのな。


「お姫さんは、やっぱり変わってるな、俺に手篭めにされかけたってのに、手当てするなんて、人が良いにもほどがある。信長にちょっと同情するぜ。折角あんたの為に城下の警備を強くしてあるんだろうに。おかげでこっちは痛い目にあったけどな」


「さっきの事は許しません。でも、それと怪我は別です。あなたは、信長様の敵だけど、目の前で血を流していて放っておく事はできません」


信長はなんでこいつをこんなに自由にさせておくんだ。
こんな隙だらけで人の良い女、俺だったら城に閉じ込めて、腕の中にずっと閉じ込めて離さねぇのに。


「ふんっ、筋金入りのお人好しだな。そろそろ時間だ。もう行っていいぜ」


あんたを連れて行きたかったけど、今回は見逃してやる。


「元就さ....ん?」

急に自由を得たアヤは一瞬驚いた顔で俺を見た。


「元就でいい。怖がらせて悪かったな、あんたに預かって来たものがあったから、今回はそれを届けに来ただけだ。お姫さんとの逢瀬は嫌いじゃない。次も楽しみにしてるぜ」


少し、血を流しすぎた。


アヤを外へと追い出し、戸を閉め、俺はしばらくその場に踞ってアヤの巻いた手拭いに口づけをした。





・・・・・・・・・・・・


「俺自身が驚いてんだ、こんなとろくさいお姫さんに、心持ってかれちまうなんて」


越前の港へと馬を走らせながら、元就は腕の中で眠るアヤのおでこへと口づけ、独り言ちた。




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