第40章 思惑
地の利のある場所で戦をしたいのは誰とて同じ事。だからアヤを利用し攫って、そこに俺をおびき出す。
だが、アヤを救い出すため軍を率いて行っても、そこにアヤはおらず、無駄足を踏まされた織田軍は疲弊することになる。
しかもアヤはそこから正反対の毛利の地、京よりも更に遠方にある安芸に連れていかれた後。
進軍するのは、これからの季節には不向きであるだけでなく、こちらにとっては地の利が悪すぎる。
アヤは戻らず、兵と兵糧と時間のみが削られて行き、精神的にも痛手を負わせるつもりであったか。
影の情報がなければ奴らの思惑に乗るところであった。
だが、アヤは渡さん。
三ツ者が向かった先は越前。
水軍を持つ毛利は必ず越前の港からアヤを連れ出すつもりだ。
俺さえおびき出せれは、武田にとってアヤはもう用無しだ。
アヤを手中に納める代わりに毛利の持つ船で、速やかに武田の手の者達を越後の近くまで送り届ける約束でもしたのか。
どちらにせよ、元就は俺に気づかれることなくアヤを手に入れるつもりであったのだろう。
くそッ!
予想以上に毛利の動きが早かった。
この冬が過ぎ去るのを待たずに奴が動くとは、それだけアヤに心を奪われていると言うことか。
前回、アヤの首に付けた奴の痕、思い出すだけでもはらわたが煮えくりかえる。
ギリギリと、血の味がする程の歯軋りも、今は何の意味もなさない。
奴の手の中にアヤがいると思うとそれだけで気がおかしくなりそうだ。
「貴様に触れていいのは俺だけだ、無事でいろアヤ」
滴り落ちる汗を拭うことも無く、信長は馬に鞭打ち必死で山道を駆けた。