第40章 思惑
店を出た私は、幸に言われたことが気になって、この前の遊女屋に向かっていた。
ちょっと確認するだけ。
今朝は秀吉さんと出て行ったから、そこにもし秀吉さんもいたら、やっぱり仕事だと思えばいいし。
いなかったら幸の見間違いかもしれないし.....
..........そう言えば、幸は信長様に会った事があるのかな。
以前、戦場での信長様のことを聞いた時も思ったけど、信長って、呼び捨てだったし、良く知ってるみたいな口ぶりだった。
お城や城下の人ならともかく、たまにしか来ない幸が見知ってるのはなんでだろう?
疑問に思っても、呉服店を出てきてしまった今となってはもう、聞くことはできない。
「ま、いっか。それよりも気持ちをスッキリさせて早く帰らなくちゃ。護衛の人達にもさすがに怪しまれちゃうよね」
私は早足で遊女屋へと向かった。
しばらく歩くと、この間信長様を見かけた遊女屋へと着いた。
来たはいいけど、ここからどうしよう。
もし本当にいたら、目が合ってしまったらどうしよう。
たまたま通りかかったって言っても信じてもらえないよね?
でも、その時は正直な気持ちを話せば分かってくれるかな。
きっと信長様はため息をつきながらも笑ってくれるはず。
都合よく自分の中でここに来てしまった言い訳をまとめて、店の中を覗く様に、少しウロウロしてみた。
でも、明るい時間の遊女屋は、そんなに賑わしくなく、準備中といった感じで静かだ。
と言うか........静かすぎ?
誰も....いないんじゃないかな。
何となくだけど、そう思いながら暖簾に頭を潜らせた瞬間、
「んっ!」
口を手で塞がれたのと、両足が地面から浮いて、体を店の中に引っ張られるのは同時だった。