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恋に落ちて 〜織田信長〜

第31章 見えない壁




あれからどれぐらいの時が経ったのか、



部屋の中は真っ暗で、縁側に横たわり、ぼーっと眺めていた外の景色もライトアップの光に照らされている。



でも、涙は枯れない。


もう、溢れ出る涙を止める気力もない。


床についた頬が涙の水たまりに浸かっている。


頭の中に浮かぶのは、さっきの葵のお父さんの言葉。

悪口や陰口なんて、安土に来る前の世界でだって言われた事はある。
デザイナーを目指して服飾の専門学校に行っている時だって、コンクールで賞を取る度に、審査員とできてるとか、体を使って賞を獲ったとか言われた事もあった。

あれだって悔しかったけど、本当のことじゃないし、嘘ばかりの悪口だったから、その悔しさを機動力にさらに頑張ろうと思えた。

安土に来た後だって、最初の内は秀吉さん達にも散々な言われようだったけど、頑張っていれば認めてくれると思って頑張れたし、みんなも少しづつ私と言う人間を理解してくれた。

でも、
ぐうの音も出ないとはまさにこの事で、あの人が言った言葉を訂正できる箇所なんて一つもなかった。


一番聞きたくなかった信長様のご正室の話も、はっきりと言われてしまった。


何となく、本当に何となくだけど、覚悟はしてた。いずれ信長様には決められた結婚相手が現れて、天主にはその人が住むことになって.......


でも、それでも離れないって決めた。


ワームホールで帰らないって決めた時に、信長様とは一生離れないって決めた。


例え、信長様の気持ちがご正室に方に向いてしまったとしても、針子部屋に住み込んで、針子として働いて、お側だけは離れないって決めたんだもん。



「離さないって........離れるなって言ってくれたもん」

目を閉じると、いつも耳元で甘く囁く信長様の声が聞こえてくる。


「信長様、お願い.......早く戻ってきて..........私を、今すぐ抱きしめて...........離さないって言って..........」



それで、がんばるから。
その言葉で明日からまた元気になるから。



「信長様...............そばにいて...............抱きしめて............」



掠れた声で何度も呟いた願いは虚しく、その日は、起きているうちに信長様は戻ってこなかった。








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