第26章 寝言
「もしかして信長様、私の事を疑ったんですか?」
安心したのも束の間、今度はアヤの機嫌が悪くなりだした。
「貴様は阿呆か、ヤキモチではないと言っておる。昨夜貴様を抱きそびれて気が立っているだけだ。それでなくても貴様が足りんのだ」
苦し紛れな言い訳だったが、
「っ、昨夜は、寝てしまってごめんなさい。今夜はちゃんと寝ないで待ってます。だから、あの....」
アヤは信じた様だ。
「だから、何だ」
「今夜は、あの」
「早く言え」
顔を真っ赤にさせて、アヤは背伸びをして俺の耳にこそっと囁く。
「たくさん、抱きしめて下さいね」
「........................っ」
不覚を取った、これが矢なら、俺は貫かれて死んでいるであろう。アヤの言葉はあらゆる方向から飛んできてかわす事は出来ない。
「わっ、信長様っ!」
アヤを抱き上げて、触れるだけの口づけをする。
「貴様には敵わん」
アヤは不思議そうな顔をしたが、俺の機嫌が直ってホッとしたのか、はにかみながら俺の首に腕を巻きつけて抱きついてきた。
「今夜は寝ずに待っていろ、これは命令だ」
「はい」
貴様の言動で、俺がどれだけ掻き回されているか、今夜はじっくりと教えてやる。
「アヤ、昼寝はしておいた方が身のためだぞ」
アヤの耳元で意地悪く囁いてやると、巻きつけた腕に少しだけ力を込めて、「はい」と頷いた。
それにしても女にヤキモチを妬くとは、初めての経験だ。
思い出せば思い出すほど、笑いがこみ上げ、不思議がるアヤを横目に、俺は暫く笑いが止まらなかった。