第23章 満月の夜
(あの頃の信長様は、本当に怖かったな。あっ、そう言えば、今夜もあの時と同じ満月だ)
信長様の腕に抱かれながら、出会った頃の事を思い出していると、
「貴様を初めて抱いた日も、満月であったな」
不意に信長様が耳元で呟いた。
「っ、あの夜の事を覚えてるんですか?」
「嫌がる女を無理やり抱いたのは、貴様が初めてだったからな」
「それまでは違うみたいな言い方ですね」
「当たり前だ。俺に抱かれたい女はごまんといるからな」
「ふふっ、それ自慢になってないですよ」
ドヤ顔の信長様が可愛くて笑ってしまう。
「アヤ」
体を屈め、私を信長様の方に向かせて見つめられた。
「信長様?」
「あの時は、貴様を傷つけてでも俺のものにしたいと思った。触れれば触れるほど、自分でも抑えられない感情に支配されて、貴様を奪い尽くしたかった」
何だか、あの時の言い訳を今になって聞かせてもらえたみたいでくすぐったい。
「私は、幸せです。始まりは確かに怖かったけど、今は信長様の優しさも、愛情もたくさん貰ってますから」
信長様の背中に手を回して胸に顔を埋める。
「貴様に与えた恐怖は、一生をかけて幸福へと変えてやる」
「はい」
返事と同時に、チュっと軽くキスをされた。
今の言葉とキスで、私が一生分の幸せをもらった様な気分になったなんて、きっとあなたは知らないんでしょうね。
あなたを好きになって、悲しみも苦しみも知ったけど、同時に、こんなにも人を愛する事が出来る事を教えてくれた。
(お母さん、私はもう帰らないけど心配しないで下さい。ここで、大好きな人と一緒に生きていきます)
「信長様、絶対に離さないで下さいね」
「何があっても離さん」
見つめ合い、引き寄せられる様に自然と唇が重なった。
満月の光に照らされながら、私達は飽きる事なく長くて甘い口づけを交わし合った。