第22章 帰路
「大変お世話になりました」
アヤは無邪気な笑顔で市に礼を言っている。
「アヤ、私も楽しかったわ。また来てね」
気位が高く、中々人を寄せ付けなかった市がアヤを気に入ったのは、やはり同じ血が流れているからなのか。アヤの持つ誰に対しても媚びへつらう事のない朗らかな性格のなせる技なのか。
「兄上様、アヤを泣かせたりしたら、私が許しませんから」
「そんな日は未来永劫来ることはない」
隣に立つアヤに視線を移すと、顔を赤くさせ俯いている。
たったそれだけの事でも愛おしさがこみ上げる。
昨晩の声を耐えるアヤにも唆られたが、怒った顔も、はにかんだ表情も全てを見逃したくはない。その俺が此奴を泣かせる日は絶対に来ぬ。
「貴様も息災でな。今度安土にも来るがよい」
「きゃっ」
アヤを片手で抱き抱え、そのまま馬に跨った。
「のっ、信長様びっくりするので声をかけて下さい」
心の臓に手を当て、アヤは目を丸くしながら訴える。
こんな顔も見惚れる程愛おしい。
「長政、世話になったな」
城の者たちに言葉をかけて、俺たちは小谷城を後にした。