第21章 於市
褥の上に抱き合ったまま横たわり、呼吸を整える。
「はぁ、はぁ、ひどい信長様っ、教えてくれたって」
涙目になって信長様を睨みつける。
「忘れておった」
「うそっ!信長様が忘れるなんてあるわけないじゃないですか」
しれっとした顔の信長様を更に睨みつける
「うー、信長様なんて嫌い。ひどいっ、嫌い」
あっちに行ってをする様に、信長様の胸をグイグイと押す。
「無駄だ、アヤ。貴様が何をしても俺を煽るものにしかならん」
「そっ、そんな言葉で誤魔化されません。私は怒ってるんです。あんなに、うー、もうあっちへ行って下さい」
更にグイグイと、胸を押す。
「機嫌をなおせ。貴様が必死で声を耐える様も捨てがたい」
「っ、信長様とのせっかくの時間を大切にしたいのに、気になって、せっかく、ずっと二人きりだったのに、嫌い」
涙目になりながら訴えると、
ぐいっと両頬を両手に包まれ顔を上げられた。
「どんな貴様も見たい。アヤ、貴様との時間は俺にとっても何よりも大事だ。だからもう怒らず笑え」
晴れやかな笑顔で私を見つめる信長様。ほんと、この笑顔とその言葉はいつもずるい。もう怒れない。
でも、簡単に許すのはちょっと悔しい。
「じゃあ明日は、お城に帰るまで、私のお願いを何でも聞いてください」
「分かった、何でも聞いてやる。貴様が笑っているならな」
余裕な返事が返ってきた。
「本当ですか?」
てっきり「阿呆か」とか言われると思ったから、思いがけず良いと言われて、笑顔になった。
「やっと笑ったな。本当に手のかかる奴だ」
口の端を上げて信長様は笑うと、私をやんわりと抱きしめ、優しく軽い口づけをしてくれた。
私の怒りはすっかり吹き飛び、明日の帰り道の事を思ってワクワクしながら、その夜は信長様の腕の中で眠りに落ちた。