第13章 二人の距離 後編
目を覚まして、ふと重大なことを忘れている気がした。
「あっ、あの女の人は?」
ガバッと褥から起き上がり、女の人がいつの間にか居なくなっていることに気がついた。
気が高ぶっていたから、周りを気にしてなかったけど。
「嘘〜」
あんなこと、こんなこと、どこまで見られたんだろう。キョロキョロ落ち着かないでいると、
「あれは、光秀の所の間諜だ」
肘をついて、あたふたする私を見ながら信長様が言う。
「えっ?間諜って」
(スパイの事だよね)
「光秀からの伝言を持って来た時に、ちょうど貴様がやって来たから、一芝居打って貰った」
ニヤッと、それはそれは楽しそうに私を見て笑った。
「芝居って、っ、私を騙したんですか」
「俺が、貴様を手放すわけないだろう」
手を引かれ、信長様の胸に抱き寄せられ、頬にキスをされた。
「っ、」
ドキンドキンと、また胸が騒がしくなる。
こういう事するの、本当にずるい。もう、怒るに怒れなくなった。
信長様の手を取り、自分の手と合わせ指を絡める。
「この手をもう、離しません。そばにいさせて下さい」
絡めた手と手を自分に引き寄せて、信長様の甲にキスをした。
信長様は何も言わずに私を優しく抱きしめて、蕩けるような口づけをくれた。