第12章 二人の距離 前編
そして、夜になり、宴の時間が来た。
女中さんが支度の時間だと来てくれて、着替えさせてくれる。
家康の言っていた、綺麗な衣装に身を包まれた私に、女中さんは宴に行くようにと言うけど、足が動かない。私がここでワガママを言えば、女中さんや家臣の皆さんに迷惑をかけることはよく分かってる。でも、もう一歩も動けない。苦しくて、逃げ出したい。
「お願いします。少しだけ、一人にして下さい」
皆に部屋から下がってもらい、腰を下ろしてため息をついた時、
カタンっと天井が開いた。
「アヤさん、取り込み中の所ごめん」
「佐助君⁈」
天井裏からクルッと一回転して佐助君が部屋に入って来た。
「アヤさん、突然ごめん。」
「ううん。本当にいつも忍者みたいだね」
「うん。忍者だからね」
「突然だけどアヤさん、例のワームホールが出現するまであと三日となった。君が帰りたいかどうかを聞きにきたんだ」
すっかり忘れてた。と言うか、帰るつもりはなく、断ろうと思ってたから。
でも、この時の私はもう、どうしていいのか分からなくなっていて、ただ逃げ場が欲しかった。
「佐助君、私....帰る」
「アヤさん?」
「現代に帰りたい、一緒に連れてって」
縋るように佐助君にお願いをした。
もう、ここにはいられない。