第2章 🐾1
人型で生活して数十年だが未だに働くということは上手くいかない。いっそのこと狼の姿で人生を終えようかと思うことは多々あったが、それは欲深い人間によって邪魔をされる。
今もこうして尚追われている。
赤みを帯びた怪しげな満月が黒い闇に浮かんでいる。
周囲は木々が生い茂るなか自分の庭のように走り抜ける。
「くそ!待て!!」
麻酔銃を担いでバイクに乗って追いかけてくる欲深い人間達。
そんなに狼の血を多く受け継いだ俺が珍しいか?
いや、ほとんどと言っていいほど狼か。
にしても、しつこい連中だ。
走りを止めることなく森を駆け抜ける。
しばらく走って振り返ると追っ手はいなかった。スンスンと匂いを嗅ぐが人間の匂いは周囲にはなかった。
俺は走ることをやめてゆっくりと歩く。
今日は悲惨だった。仕事先の先輩には怒られるし、ストレス発散で狼の姿になったと思ったら人間に追われるし。
『?!』
少し開けた場所に出ると、金髪で色黒の男性が汗と泥で汚れた姿で現れた。
ちっ!油断した!こいつもアイツらの仲間か!!
俺は踵を返して走ろうとするとその男に呼び止められる。
「この辺に男をみなかったか?!」
意味がわからなかった。俺を捕まえようとする素振りもないこともそうだが、今俺は狼の姿。つまり、あの男は動物の俺に話しかけてきているのだ。
クレイジー……。
なんて思いながら、俺は遠吠えをした。
もし、こいつが探している男が俺を追っかけている奴なら殺し合いでも言い合いでも何でもしてくれ。俺に自由をくれ。そう願いを込めて。
遠吠えをした後、そいつは驚いた表情でポツリと呟いた。「動物相手に俺は何を言っているんだ。」頭を抱えて来た道を戻ろうとしていた。そこへ俺を追ってきていた人間がバイクを走らせてやってきた。
「みつけた!!馬鹿な狼め!!」
バイクに乗っている男は気持ち悪い笑みで笑って麻酔銃を構える。
男の声に金髪の男が目を見開いたと思ったら銃声音が聞こえた。
「うぐ!!」
バイクから転げ落ちる男。持っていた麻酔銃は金髪の男が発砲したことによって使い物にならなくなっていた。
「見つけたぞ!密猟者!!」