第1章 再会
あの日の忌まわしい記憶は今でも覚えてる。
『ましろちゃん、ましろちゃん……、ぐすっ、ぐすっ』
私は、綿の山を抱えて咽び泣く。
頭の中をよぎるのは、ダックスフンドのような体型の真っ白な猫のぬいぐるみ。
名前を呼ぶと片手を振って答える、頭のいいぬいぐるみだ。
お母さんは刺繍が上手で、刺繍を勉強するための初歩として私が作ったぬいぐるみ。その時たまたま個性が発動して生まれたのが真白ちゃん。
運悪く生まれ持った個性が『伸縮自在』だったせいで真白ちゃんは誘拐され、『人間ではない』という理由でヒーローの助けが遅れたために切り刻まれてしまった。
「おれがざいりょうをかってやるから、さっさとなきやめよ!」
『うわ、あぁぁ、ましろちゃぁぁぁん!』
私の個性(ちから)だからこそ理解できる。
作ったぬいぐるみの見た目は自由に選べるけど、ぬいぐるみの性格や個性は自由に生み出せない。まだ練習不足なせいもあるけど、どんなに頑張っても共に過ごしてきた記憶や思い出は蘇らない。
だって、生きていたから。