君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第11章 pesante
怒り…なのか何なのか…、腹の底が沸々と湧き上がって来るのを感じた。
俺は彼女の手を振り払うと、足早に店の外へと出た。
松本には申し訳ないが、後から謝れば良い。
ズカズカと足を鳴らし通りに出た俺は、行き交う車の並に空車 のランプを探した。
酔いなんてすっかり醒めていると思った。
でも流れるライトを見ているうちに、目の前にチカチカと星が散り始め、頭の中で鐘が鳴るような、そんな感覚に襲われ…
俺はその場に蹲った。
胃が焼け付くように熱くて、口の中に苦い物が広がる。
やべぇ…、飲み過ぎた…
後悔したところで遅い。
俺は蹲ったまま、立ち上がることすら出来なかった。
「ふふ、相変わらずだらしがないわね…」
俺を蔑むような、下卑た笑い声が聞こえたような気がしたが、それすらも遠くに聞こえて…
目を凝らしてはみるけど、チカチカと星の散る視界はグニャリと歪むばかりで、その声の正体すら掴むことが出来ない。
「さと…し…」
無意識に呼んだ名前…
目の前にいるのは、間違いなく彼ではないのに、どうして彼の名前を呼んだのか…
酒のせいにするには、あまりに自分が情けなくて…
俺は電信柱に背中を預け、両足を投げ出すと、ゆっくりと瞼を閉じた。
その瞬間、プツリ…と俺の意識は途絶えた。
どうやって自宅まで戻ったのか…
次に目が覚めた時、俺は自分のベッドの中だった。
「頭痛てぇ…」
完璧二日酔いだな…
鐘を打ち鳴らすようにガンガンと響く頭を抑えると、自分が何も身に着けていないことに気づいた。
勿論、シャワーを浴びた記憶はない。
俺は記憶を辿るように視線を巡らせた。
その時、
「ん…」
小さな声が聞こえて、俺の隣で何かがコソリと動いた。
「えっ…、なん…で…?」
「何でって…覚えてないの? 自分から誘ったのに?」
俺が…誘った…?
「嘘…だ…」
「嘘じゃないわ…」
濃いメイクの彼女は、長い髪を掻き揚げ、ゆっくりと身体を起こした。
露わになった胸の膨らみに、無数に散らばる赤い花…
瞬間、俺は全身の血の気が引くのを感じた。