君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第11章 pesante
入口で店員に松本の名を告げると、ピシッと身形を整えた、如何にもギャルソン風の若いウェイターが、俺を個室へと案内してくれた。
見る限り、とても品の良い、それでいて落ち着いた雰囲気のある店だけに、定食屋と同じテンションで話すのは気が咎めるような気もしたが、個室ならそこまで気を遣う必要もない。
俺は松本が来るまでの間、時折スマホに視線を向けながら、メニュー表を捲った。
どれも名前も聞いたこともないような料理ばかりで、しかも俺の見間違いじゃなければ、“ 0”の数も一つばかり多いような気がして…、一瞬頭の中に財布の中身を想像したが、カードもあることだし、取り敢えず何とかなるだろう。
いや、寧ろ何とかなって貰わないと困るんだが…
つか…、それにしても遅くねぇか?
自分から誘っておいて遅刻とは…
まあ、松本のことだから、そう珍しいことでもない(笑)
俺は一人笑うと、メニュー表をパタンと閉じた。
その時、丁度タイミング良く俺のスマホがブルッと震え、画面に短いメッセージが表示された。
『俺も会いたいよ』
智からだ…
俺はすぐ様メールアプリを起動させ、スマホの画面に指を滑らせた。
『週末会えないかな?』
俺にしては短いメッセージを打ち込み、いざ送信!
…と思ったら…
「ごめんごめん、遅くなっちゃって〜」
タイミング悪く、ウェイターに案内され松本が個室に入って来た。
チッ…
俺は心の中で舌打ちしながらも、オーダーを待つウェイターの手前、営業用スマイルを浮かべて松本を出迎えた。
「取り敢えずビールと…、後は適当で良い?」
「ああ、うん…、任せるよ」
メニュー表を見たところで、俺にはチンプンカンプンだし、ここはこの店を選んだ松本に任せた方が無難だ。
「OK、じゃあ…」
松本はメニューを開くことなく、まるで呪文のような料理名を、それはそれはスラスラとウェイターに伝えた。
うん…、ちょっと見直したかも…(笑)