君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第10章 trill
「あれ? リモコン、分からなかった?」
トイレから戻って来た櫻井さんが、ドカッとソファに胡座をかいて、リモコンを手にする。
そして俺が押したのとは違うボタンを押した。
テレビのスイッチが入り、堅苦しいスーツ姿のニュースキャスターが画面に映る。
そっか…、俺が押したのはDVDプレーヤーの電源だってのか…
だから、あんな映像が…
それにしたって驚きだったけど…
その証拠に、腹は空いてる筈なのに、弁当は一向に減る様子がない。
それに気付いた櫻井さんが、
「どうしたの? もうお腹いっぱい?」
俺を覗き込んで来るけど、返事なんて出来る筈もなくて…
それでも櫻井さんが気にするからと、魚のフライを頬張ってはみたけど、飲み込むことが出来なくて…
結局缶に残っていたビールで流し込んでから、弁当に蓋をした。
そしてスマホを取り出すけど、思った以上に充電が減ってるのに気付いて、櫻井さんのシャツの袖を引くと、紙とペンを貸して欲しいと訴えた。
「これで良い?」
差し出されたメモ用紙とペンを受け取り、何も書いていない用紙にペンを走らせる…けど、なんて聞いたら良いのか…
やっぱりストレートに聞くべき…なのか?
それとも何枚も重ねたオブラートに包むべき?
俺は迷った結果、
『DVD…見ちゃった…』
間違ってDVDの電源を入れてしまったこと、そしてDVDを見てしまったことを伝えた。
櫻井さんは、一瞬困ったような、焦ったような…、そんな様子を見せたけど、すぐに真面目な顔をして箸を置いて、俺の方に身体ごと向けて座り直した。
「松本から借りたんだ…って言うか、正直に言えば“押し付けられた”んだけどね…」
潤さんが…?
「俺…さ、女性とは勿論経験あるけど、男性とは…その…、初めてっつーか…」
知ってるよ…。
寧ろ、男性との経験がない方が、世間で言う“普通”なんだってことも…
「松本に聞かれたんだ…“どうしたいんだ”ってさ…」
それは、“ 抱きたい”のか“抱かれたいのか”ってこと?
「流石にさ、答えに困ってね…」
だろうね…
“抱く”にしろ“抱かれる”にしろ、元々ノンケの人にしてみれば、相当な覚悟が必要だし、よっぽど強く相手のことを想ってなきゃ、中々一歩を踏み出すのは難しいと思う。