君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第10章 trill
思ってたよりも、うんと大きなマンション…
俺やニノみたいに、バイトで生計を立ててる人間には、どう頑張っても手の届かないような、立派な建物を前に、俺は櫻井さんを尊敬の眼差しで見上げた。
高い所が苦手だと言う櫻井さんは、二階部分に部屋を借りているらしく…
にも関わらず、エレベーターを使うから笑える。
「本当に散らかってるから、驚かないでね?」
こうして念押しされるのは、何度目だろうか…
玄関のオートロックを操作する櫻井さんは、やっぱり苦笑いだ。
「どうぞ、入って?」
言われて、開いたドアの隙間から中を覗き込む。
玄関から真っ直ぐに伸びた廊下は、特に散らかった様子もなく、綺麗な状態になっている。
強いて言うなら、下駄箱に入り切らなかった靴達が、玄関に所狭しと並んでいるくらいで…
なんだ、普通じゃん(笑)
俺は櫻井さんが用意してくれたスリッパを履いた。
でもそこで安心してちゃいけなかった…
リビングと廊下を隔てるドアが開かれた瞬間、俺の口は顎が外れるんじゃないかってくらいに開いて…
「驚いた…よね…?」
聞かれても、頷くことすら出来ずに、櫻井さんとリビングとを交互に見た。
別に汚れてるとか、ゴミが散らかってるとか、そんなわけじゃない。
ただ物が散乱してるだけのことなんだけど、一見几帳面そうに見える櫻井さんだけに、意外…って言うか衝撃って言うか…
「と、とりあえず座って?」
見事に固まったままの俺をよそに、ソファの上に脱ぎ散らかした服を抱え、あっちへこっちへと歩き回る櫻井さん。
その姿は、もし俺が櫻井さんに対して過大な理想を持っていたとしたら、それこそ幻滅するレベルのかっこ悪さで…
でもどうしてだろ…、そんな櫻井さんが愛おしく思えてしまうのは…
俺はカウンターにコンビニの袋を置くと、床に散らばった本やら書類やらを一纏めにして、部屋の隅に積んだ。
「ごめんね、せっかく来てくれたのに…」
申し訳なさそうに頭を掻く櫻井さんに、俺は首を横に振って答える。
だって俺、こう見えてけっこう掃除とか嫌いじゃないし。
寧ろ、好きかも(笑)