君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第26章 番外編☆dolce
「ごめん、待ったか?」
「俺も今来た所だから…」
「そっか…」
せっかちな翔さんらしく、コートを脱ぎながら、俺の向かいの席に腰を下ろす。
ピシッとスーツを着込んだ翔さんの姿に、一瞬見蕩れてしまう。
「智? どうかした?」
「え、あ、ううん、何でもない。それより腹減った…」
とても見蕩れてたなんて言えない俺は、誤魔化すように咄嗟に腹を摩って見せた。
するとクスリと笑った翔さんは、「俺も腹ぺこだよ」と俺を真似た。
「何にする?」
色褪せたメニュー表をテーブルに広げ、翔さんが俺を覗き込む。
聞かなくたって、俺が何を頼むかなんて知ってるくせに…
「翔さんは? 帆立丼?」
貝類が好物の翔さんは、この店に来ると、必ずと言って良い程帆立丼を注文する。
「そうだな…、たまには違う物を…と思うけど、やっぱり帆立丼かな(笑)」
「ふふ、じゃあ俺は…」
「海鮮丼…だろ?」
言いかけた俺を遮って、翔さんが自信満々に言って、俺の返事を聞くことなくメニュー表を閉じてしまう。
「俺まだ見てもないのに…」
「どうせ見たところで、智が頼むのは“海鮮丼”一択だろ?」
そうだけどさ…
俺だって違う物食ってみたくなる時、あるじゃんか…
なのに、
「すいません、帆立丼と海鮮丼」
俺の意見なんてそっちのけで、さっさと注文しちゃうし…
翔さんて、結婚したら絶対亭主関白になるタイプだよな…
ま、俺はそんな翔さんが好きなんだけどさ…
咄嗟の時に瞬時に出来る判断力や決断力は、俺には無いものだから…