君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第26章 番外編☆dolce
「ごめん、思ったより時間かかっちゃって…」
カウンターの端で船を漕ぎ始めたちょっと撫でた肩を叩くと、本当は凄く眠いんだろうに、何でもないような顔をして俺の首にマフラーを巻き付けようとするから、俺はそれをやんわり拒む。
「俺は大丈夫だから、翔さんがしててよ」
「智が風邪をひいたらいけないから…」
「それは翔さんも同じでしょ?」
「でも外は寒いし…」
本当にこの人はどこまで優しいんだろう…
「大丈夫だって…。それよりさ、明日も早いんでしょ? 早く帰らないと…」
俺は片方の肩にリュックを引っ掛けると、
「じゃ、後頼むね? お先に」
ラスト業務で残るバイト君達に声をかけてから、翔さんの手を取り、すっかり看板の明かりの消えた店を出た。
「寒っ…」
想像してた以上の寒さに、俺は思わず肩を竦めた。
「だから言ったでしょ? ほら、マフラーして?」
「でも翔さんだって寒いじゃん…」
「俺は…下に沢山着込んでるから…」
確かに…
厚めのダウンを着ているから見た目にはそう分からないけど、俺が見る限り明らかに着膨れしているように見える。
それでもやっぱり寒いのには違わなくて…
「じゃあさ、手袋…片方貸してよ」
「え? 片方だけで良いの? 別に良いけど…」
頭の上に無数の?マークを浮かべた翔さんが、唇を尖らせ、何度も首を傾げる。
そして握っていた僕の手を離すと、離した方の手袋を外そうとするから、
「違うよ、そっちじゃなくてこっち」
俺は反対側の手を指さした。
「え、ああ、うん…。はい、これで良いの?」
外した手袋を、翔さんはやっぱり首を傾げて俺に差し出す。
俺は受け取った手袋を、ダウンのポケットに突っ込んでいた手にはめると、再び翔さんの手を握った。
「これなら両方暖かいでしょ?」
「そっか…、なるほどね…」
ははは…、やっと気付いたのかよ(笑)