君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第23章 passionato…
それから凡そ半月…
張り紙に書いてあった日時に、上田を誘って商店街へと向かった。
上田は、本来昔馴染みの店を好む方で…
どちらかと言えば新規開拓を好まない男…なのかな、興味はあるものの実際に行くとなると、急に渋り始めたりするから、そこを説得するのは中々に手間のかかることではあったけど…
ところが…だ、意気揚々と商店街に向かった俺達の目に映ったのは、どこからそんなに人が集まって来たのかと思う程の行列で…
「どう…しようか…」
苦笑混じりに上田を見やると、明らかに不機嫌丸出しの表情で…
真冬にも関わらず、タンクトップの上にレザーのライダースジャケットを羽織っただけの身体を震わせている。
仕方ないな…
「また今度にしようか…」
「いいんすか? 楽しみにしてたんじゃ…」
「まあね…。でも流石にこうも混んでちゃ…ね…」
上田程気は短くないが、俺も基本待つことは苦手だ。
ましてや並んでまで…とは、実際思わない。
何時間も待たされるくらいなら、他の店を当たった方がよっぽどマシだ。
新しい物好きな俺としては、若干後ろ髪を引かれる思いではあったが、俺達は特に相談することもなく、会社帰りによく立ち寄る居酒屋へと向かった。
「いらっしゃい」
暖簾を潜ると、おっとりとした声が俺達を出迎えてくれるから、思わずホッとしてしまう。
俺達は並んでカウンター席に座ると、迷うことなく熱燗を注文した。
寒い夜には、冷えたビールも良いが、やっぱり熱燗が良い。
「それにしても今日は静かですね?」
額に捩り鉢巻姿で、カウンターの中で一升瓶を傾ける大将に声をかけると、元々悲しげな造りの顔を更に歪ませて、
「仕方ないよね…、今日は…」
やっぱりおっとりした口調と声で言った。
「まあいいんじゃないすか? この方が落ち着いて兄貴と飲めるし…」
徳利を傾け、上田がお猪口に酒を注ぐ。
「確かにそうだな…」
賑やかなのも良いが、たまにはこういうのも悪くない。