君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第22章 subito
鼻の奥がツンと痛くなって、目頭も熱くなって…
多分今にも泣きそうな顔してたんだろうね…、松岡さんが組んでいた両手を解いて、俺の顔を両手で挟み込むと、
「まーたお前はそうゆう顔する…」
ほっぺたをギュッと摘んで左右に引っ張った。
つか、痛てぇし…
「あんなぁ、何も全部忘れろとは言ってないし、忘れる必要もないって言ってるだろ?」
「ひゃ…ひやっれ…」
「大体、どれだけ強く“忘れたい”と願ったところで、過去が消えるわけでもねぇ」
それは…、確かにそうだけども…
「それに変えらんねぇしな?」
じゃあどうすれば…?
このままどうしようもない後悔だけを抱えて生きて行ける程、俺は強くないってことを知った。
雅紀さんや潤さんがいなかったら、俺だってもしかしたら…
「そのままのお前で良いんじゃねぇの?」
「この…ままの、俺…?」
自分自身、いつまでも過去に縛られて、立ち止まっては歩き、また立ち止まって…、その度に誰かを頼ることしか出来ない、そんな自分が嫌で仕方なかった。
なのにこのままで良いなんて…
「簡単なことだよ。忘れることも、ましてや変えることも出来ねぇ過去なら、そいつを認めてやりゃ良いんだよ」
「認め…る…?」
「もう過去の自分から逃げることも、過去の悲しみや苦しみに雁字搦めになって、自分を虐めることもしなくて良いんだよ。お前は、お前の過去もひっくるめて“お前”なんだよ」
松岡先生がいつものようにティッシュの箱を俺の前にポンと置く。
無意識にティッシュを差し出される程、俺は泣き虫だと思われてるのかと思うと、自分がちょっとだけ情けなくなる。
つか、俺泣いてねぇし…
俺はティッシュを一枚抜き取り、豪快に鼻をかむと、クシャッと丸めたティッシュを松岡先生の前にポンと置いた。
松岡先生は躊躇うことなくそれを手に取ると、机の下にあるゴミ箱に投げ入れた。