君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第21章 loco
派手なネオンで飾られたドアを開くと、途端に冷たい風が店内に吹き込んで来て、まだコートを羽織っていない俺達は、同時に肩を竦めた。
「二人とも気を付けて帰るのよ?」
店の外まで俺達を見送ってくれた智也さんが、黒のタンクトップの上にショッキングピンクのストールを引っ掛けただけの、なんとも寒々しい格好で手を振る。
俺達は二人して智也さんに手を振り返しながら、お互い顔を見合わせては、時折吹き付ける風の冷たさに肩を震わせた。
「良い人だね、智也さんて…」
「うん…。俺さ、あの人と会って、漸く自分のことを認められるようになった、って言うかさ…」
コートのポケットに両手を突っ込み、僅かに欠けた月を見上げて、松本が白い息を吐き出す。
「俺、あの人に救われたんだよね…」
「そう…なんだ…?」
「俺さ、中学の頃…だったかな、凄く好きな子がいてさ…」
勿論、男だけど…
そう言って松本が小さく笑う。
「でもさ、その時はまだ“男が男を好きになる”ってことがどういうことか、俺全然分かってなくてさ…」
「案外初心(ウブ)だったんだ?」
「まあ…ね…、その頃の俺は何も知らない、ただの子供だったからね…」
「へぇ…、お前にもそんな頃があったんだな?」
誰にでもある、純粋で…何の汚れもない無垢な時間…
それはあまりにも短く、あっという間に過ぎ去ってしまうものだ…、俺がそうであったように…
「俺さ、その子のことが好き過ぎてさ、思い切って告ったんだよね…。後先なんて全く考えずにさ…」
「それで…、結果は?」
聞かなくたって大体の想像はつく。
あえて答えを問うのは、僅かな可能性にかけてみたかったから…
でも…
「振られたよ…。考えることも、迷うことさえなく、一言…、“気持ち悪い”って…、あっさりさ…」
結果は俺の予想を裏切ることはなかった。