君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第21章 loco
たった一度…
その、“たった一度”の失敗が、この先の人生にとって、良くも悪くも影響を与えることがある。
そう…、この俺のように…
いつもと変わらない朝だった。
通勤客で混雑する電車だっていつものことだし、擦れ違う人と肩がぶつかったって、顔を見合わせることも、謝ることすらしないのだって、通常モード。
なのに、会社の受付で社員証を提示した瞬間から、それまで日常だと思っていた風景が一変した。
“何かがおかしい…”それが、俺が最初に感じた違和感。
そして次に感じたのは…
同僚は勿論のこと、これまで俺を慕って来ていた後輩社員達の“よそよそしい態度”と、直属を初めとする上司達の“冷ややかな視線”だった。
俺は、廊下に出来た人だかりの中に松本の姿を見つけ、声をかけた。
「よっ…」
なんて、いつもと同じように…
でも松本は俺の顔を見るなり、慌てた様子で俺の腕を掴むと、通用口の外へと引っ張った。
「ちょ…、何…急に…」
会社に着いたと同時にコートを脱いでしまったから、ビルとビルの間から吹き抜ける風がやたらと冷たく感じる。
その中で松本は、酷く顔を強ばらせていて…
「どうした…、何かあったのか?」
寒さを堪えきれず、手に持っていたコートを再び広げながら聞くと、松本が苦渋に満ちた顔で、
「どうもこうもねぇよ…」
まるで唾でも吐き捨てるような…、そんな口調で言って、通用口から通じる外階段の手すりを拳で叩いた。
「一体どうしたんだよ…」
元々気性は荒い方だが、松本が勤務中に感情を露にすることは滅多にない。
それだけに、怒り…ともとれる感情を手すりにぶつける松本に、つい戸惑ってしまう。
「なあ…、何があった?」
何度も手すりに叩き付けたせいか、微かに赤くなった腕を掴んで、再度問いかける。
すると松本は、俺が掴んだのとは反対の手で前髪を掻き上げ、一言…
「お前…、異動だって…」
ともすれば風にさえ掻き消されてしまいそうな、小さな声で言った。