君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第3章 marcato
まさか、こんなことって…
一瞬時が止まった。
見間違いだろうか…
それとも、彼のことを考え過ぎたが故に見せた幻なのか…
そうでなかったら、神様も意地悪が過ぎる!
俺はスマホをポケットに捩じ込み、ネクタイを無造作に緩めると、コンビニへと駆け出した。
つい数分前に諦めることを決意したばかりなのに…
自動ドアが開くのももどかしく、両手で押し開き、陽気なチャイム音に促されるまま店内へと駆け込んだ。
カッターシャツが汗でしっとりと濡れているせいか、ヒンヤリと冷たい空気に寒さを感じた。
そう広くはない店内を、早足で陳列棚と陳列棚の間を練り歩き、ほんの一瞬見かけただけの人影を探す。
どこだ…、どこにいる…
逸る気持ちが抑えきれないまま、闇雲に視線を巡らせていた俺は、目の前から来る人影にも気が付かず…
「いて…」
ドン、とした衝撃を左肩に感じた時になって漸く、俺は自分が人にぶつかったことに気が付いた。
「す、すいません…」
すぐ様脇見をしていたことを詫び、振り返った俺は、同じように振り返った相手の顔を見て、思わず息を飲んだ。
「…君は…」
あの時の…
言うが早いか、俺の手は彼の腕を掴んでいた。
やっと会えた…
見間違いなんかじゃない、ましてやゆめや幻なんかでもない…、現実の彼が今俺の目の前にいる。
そう思った瞬間、俺の胸の奥に巣食っていた謎の感情が、たった一つの答えへと向かって加速を始めた。
「ずっと探していたんだ」
彼の戸惑いなんて全く無視して、俺は自分の感情を彼にぶつけていた。
「君に会いたかった…」
勢いで抱きしめてしまいそうになる感情になんとか折り合いを付け、彼が手に何も持ってないことを良いことに、俺は彼をそのまま店の外へと連れ出した。