第19章 stringendo

とことんついてない…というよりかは、“終わった…”と言った…そう、正にそんな感覚に近かった。

願いも虚しく、松本と漸く連絡が取れたのは、丁度会社の最寄り駅に着いた頃だった。

松本は電話に出るなり、呆れたとばかりに深い溜息を一つ落とした。

｢櫻井さぁ…、今日がどんだけ大事な日か分かってるよな？｣

｢ああ…、分かってる…｣

ここ最近のマイナスを取り戻すべく、新規プロジェクト立ち上げのための企画責任者に手を上げたのは、俺自身。

社運こそかかってはいないが、俺にとっては、大袈裟かもしれないが、この先の自分の人生をかけたプロジェクトでもあった。

そして俺のサポート役に買って出てくれたのが、同期でもある松本だった。

だから責任者である俺がコケれば、当然松本を道連れになることは、十分過ぎる程理解していた筈なのに…

｢…ごめん…｣

謝って済む事じゃないのは分かってる。

それでも謝り続けることしか出来ない自分が悔しくて…

俺は唇をキツく噛み締めた。

｢はあ…、もういいよ…。取り敢えず無事に…とは言えないけど、会議も終わったし、それなりに会社上層部からの賛同も得られたから…｣

｢そっか…、済まなかったな、お前に迷惑かけて…｣

｢だから、もういいって。ただ…さ、坂本さんがえらくお冠でさ…｣

｢坂本部長が…？｣

坂本部長は、俺達の直属の上司でもあり、新規プロジェクトの立ち上げの立案者で…

そして入社以来、随分と目をかけても貰ったし、俺が最も尊敬し、信頼する上司でもある。

その坂本部長の顔に泥を塗るような真似をしたんだから、お冠も当然のことかもしれない。

｢分かった。坂本部長には明日直接謝罪しておくよ｣

｢ああ、そうしろ。それより、そっちはどうなった？ 彼女ん家行ったんだろ？｣

そうだ…、企画会議のことで頭がいっぱいで、松本に彼女の実家を尋ねることを伝えてあったことを、すっかり忘れていた。

｢それがさ…｣