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君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】

第18章 espresso


あれって、まさか…

『あの…』

言いかけた丁度その時、ノックもなく開け放たれたドアから、サングラスをかけたままの潤さんが、軽く頭を下げてから診察室の中へと入って来た。

そして松岡先生に簡単に礼を言うと、今度は俺に向かって「帰るぞ」とだけ言って診察室を出て行ってしまった。

「…ったく、アイツは相変わらずだな(笑)」

呆気にとられるでもなく、松岡先生が豪快に笑ってタブレット端末の電源を落とす。

さっきチラッと見えた画像が気にはなったけど、潤さんの機嫌を損ねる訳にもいかず…

俺は慌ただしく身支度を整えると、松岡先生に頭を下げてから診察室を飛び出した。

『ごめん、待たせた…』

「今日はやけに長かったな?」

『そう…かな…?』

俺はそこまで気にはならなかったけど、待ってる側にとってはそうなのかもな…

もっとも、潤さんは読みかけだった小説を読み終えられたことを喜んでいたけど(笑)



潤さんの運転する車に乗り込み、何度も見た景色をながめていると、不意にあの日食べ損なったチョコレートケーキが脳裏を過ぎった。

『ねぇ、寄りたい所があるんだけど…』

「どこ? 遠いの?」

俺が寄り道したいなんて、滅多に口にしたことがないからなんだろうけど、潤さんが一瞬驚いたような顔をする。

『駅前の商店街にあるケーキ屋さん…、そこに寄って欲しい』

「ケーキ屋なんてあったか?」

店構えも古いし、目立つ程洒落た店でもないから、潤さんが知らないのも無理はないか…

『そこのね、チョコレートケーキがどうしても食べたいんだ…』

だめ…?

運転する横顔を覗き込むと、潤さんはサングラス越しに少しだけ目を細めて、

「ケーキ買うだけだろ? だったらそんなに時間はかからないな?」

そう言ってハンドルを右に切った。

ありがとう…

俺は心の中で潤さんにお礼を言うと、瞼の裏側にショーケースの中に並んだケーキを思い浮かべた。

まだあると良いな…、あのキラキラのケーキ…
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