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君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】

第18章 espresso


「それで? 君は二宮君のケーキを買って、アパートに帰った…、そうだったね?」

俺の手が止まったタイミングで、松岡先生の落ち着いた声が話の先を促す。

でも俺の手が再び動き出すことはなくて…

その代わり俺の口からは、声とも雑音とも区別のつかない、酷く掠れた声だけが零れた。

『……………だ…』

「ん? 何て…?」

『俺…が、ニノ…を…殺し…た…』

そうだ…、俺がニノを殺したんだ…

今までずっとその記憶に蓋をして、自分は悪くないんだ…って、悪いのはニノの気持ちを拒んだ雅紀さんと、ニノと雅紀さんの間に割って入った潤さんなんだ…って…

そう思い込もうとして来たし、現にそうすることで、自分が犯した罪の意識から逃れて来た。

でもそうじゃなかったんだ。

『俺…が…』

震え出した手から、強く握り締めていた筈のペンが滑り落ち、床にカランと音を立てる。

「少し落ち着こうか?」

松岡先生が言ってくれるけど、それでも手の震えは止まらなくて…

「ほら、落ち着け…、な?」

俺の震える手を、松岡先生の大きな手が包み込んだ。

松岡先生の手は、今はもう触れることも叶わない、翔さんの手にどこか似ているような気がして…

そんなわけないって、翔さんとは全然違うんだ…って、ちゃんと分かってるのに…

なのに不思議と手の震えも、乱れた感情も、徐々に落ち着きを取り戻して行くのを感じた。

『ごめ…なさ…い…、俺…』

「いや、構わんよ」

少しだけホッとしたような表情を浮かべ、松岡先生の手が俺の手から離れて行く。

そして足元まで転がって行ったペンを拾い上げると、 そのまま席を立って、備え付けの小さな冷蔵庫の中から缶コーヒーを二本取り出した。

「飲むか?」

一本を俺に差し出し、さっきまで座っていた椅子に再び腰を下ろした。

そして自分の分の缶だけを開けると、一息にコーヒーを飲み干し、空になった缶をテーブルの上に置いた。
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