君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第18章 espresso
休日の病院は嫌いだ。
平日なら大勢の患者で溢れている待合室には人気も無いし、照明だって必要最低限の明かりしかないから、ちょっとだけ不気味で…
俺達の足音だけがやたらと響いて聞こえる。
怖い…とか、そんなんじゃないけど、どうもこの独特な空気感だけは好きになれない。
「じゃあ、俺は向こうで待ってるから」
『うん…』
俺の診療が終わるまでの間、潤さんはいつも喫茶コーナーで時間を潰す。
ま、喫茶コーナーと言っても、自販機前が数台と、簡単なテーブルセットがあるだけの、簡単な物だけど…
そこでコーヒーを片手に、お気に入りの小説を読むのが、ここ最近の潤さんの休日の過ごし方…らしい。
本当なら、俺が転がり込んだせいで、めっきり減ってしまった雅紀さんとの時間を楽しみたいんだろうけど…
だから内心申し訳なく思ってはいるんけど、あえてそれを口にすることはない。
雅紀さんが怒るから…
多分、雅紀さんの中で俺は、ニノの代わりみたいな存在なんだと思う。
でも、もし仮にそうだとしたら、俺にくれる優しさを、ニノに与えてやって欲しかった。
尤も、ニノが本当に欲しかったのは、兄としての優しさなんかじゃなきて、もっと別の感情ではあったけど…
俺は潤さんが廊下の角を曲がるのを見届けてから、診察室のドアを軽くノックした。
そして、「どうぞ」と返って来た声と同時にドアを開ける。
『ど…も…』
俺が軽く頭を下げると、窓辺に立ってい松岡先生は白衣の裾を翻しながら椅子に座り、俺よりもうんと年上なのに、とてもやんちゃな顔をして笑った。
「待ってたぞ、坊主」って言いながら…
松岡先生は、俺が“坊主”と呼ばれる度に口を尖らせて、不機嫌な顔をするのを楽しんでいるんだ、ってことについ最近になって気が付いた。
だから俺は、思いっきり弾けた笑顔を浮かべてやるんだ。
松岡先生が悔しがるような、ね(笑)