君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第18章 espresso
洗面所で顔を洗って、ついでに寝癖も直してからリビング入ると、雅紀さんが丁度トースターからパンを取り出したところで…
程よく焼けたパンにバターをサッと塗ると、それを俺に差し出した。
「ほら、さっさと食べて? じゃないとまた潤に”遅い!”って怒られるから…」
『うん…、ありがと…』
俺は受け取ったトーストを、キッチンの隅っこに立ったまま口いっぱいに頬張り、すかさず差し出されるコーヒーで流し込んだ。
『ごちそうさま。行ってくる…』
「うん、行っといで」
空になったカップを受け取った雅紀さんが、相変わらずの爽やかな笑顔で手を振る。
雅紀さんのマンションに居候するようになってから気が付いたことなんだけど…いや、もっと前からなんとなーく思ってはいたけど…
『雅紀さんて、母ちゃんみたいだ…』
いっつも優しくて、でもたまに本気で怒るとビビるくらい怖くて、ちょっぴりお節介で…
そんなことを考えていたからかな、顔が自然に笑ってたみたいで…
「何だよ、さっきからニタニタして…、気持ち悪いな…」
てっきり運転に集中しているとばかり思った潤さんに言われて、俺は咄嗟に顔を引き締めた。
なのに潤さんときたら…
「あ、まさかお前、エロいことでも考えてたんじゃないだろうな?」
『は、はあ…?』
「まあ、まだ若いんだし? 溜まるのも分かるけどな?(笑)」
『ち、違うし…、そんなんじゃねぇし…』
つか、アンタとは違うから…
って、俺が何を言ったところで、多分潤さんには寝耳に水だろうから、俺は仕方なく車窓に視線を向けるフリをして、こっそり唇を尖らせた。
でもふと思うんだ…
もし雅紀さんや潤さんがいてくれなかったら、今頃俺、どうなっちゃてんだろう、って…
きっと、何もやる気がなくなって、ただただ無気力な日々を過ごしてるんだろうな…
尤も…、ニノみたく自分で命を経つ程、俺は弱くは出来てないみたいだけど…