君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第17章 generalpause
「そう言えば…。近々君のご両親にご挨拶に伺いたいんだけど、いつ頃が良いか都合の良さそうな日を聞いといて貰えないか?」
彼女とは高校時代からの付き合いだから、当然ご両親とも面識はあるが、こうなってしまった以上、順序は逆になってしまったが、男として最低限の筋だけは通しておきたい。
いや、寧ろそうするのが当然のことだと思っていた。
なのに彼女から返って来たのは、
「挨拶って、何のために? 必要ないわ」
耳を疑いたくなるような一言で…
ただ俺も簡単に引き下がるわけにもいかず、
「いや、でもそんなわけには…。今後のこともあるし、ご挨拶だけはちゃんとしておかないと…」
ポケットに入れておいたスマホを取り出すと、アドレス帳の中から彼女の実家の番号を表示させ、彼女に差し出した。
でも彼女はそれを受け取ろうとはせず、忌々し気に赤い唇から息を吐き出すと、
「しつこいわね…、必要ないって言ってるでしょ? 大体、今後のことって何?」
訝しむように首を傾げてみせた。
そして更に俺を愕然とさせるような言葉を口にした。
「まさか結婚したいとか、そういうことじゃないわよね? だったらご免よ? 私、貴方と結婚するつもりないもの」
と、微かに笑いを含んだ口調で…
それには流石の俺も動揺を隠せず、混乱する思考を必死で巡らせてはみるけど、結局上手く纏めることが出来ないまま、
「言ってる意味が分かんないんだけど…」
酷く掠れた声で呟き、今にも手から滑り落ちそうなスマホを再びポケットに仕舞った。
なのに彼女は平然ととしていて…
手鏡を片手に、化粧直しを始めた。
以前の彼女は…、俺が知っている彼女は、人前で平気な顔をして化粧を直すなんてことはしなかった。
リップクリーム一つ塗るのだって恥らっていたのに…
いや、変わったのは何も外見だけじゃない…
社会に出て間もない頃の彼女は、良く俺との明るい未来を思い描いては、夢見がちな少女のように目を輝かせていた。
でも今俺の目の前にいる彼女は、全くの別人のようで…
こんな女…、俺は知らない…