君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第17章 generalpause
「何を…してる…」
勢い良く身体を起こし、彼女の手の中にあるスマホに手を伸ばす。
彼女が身重の身体でさえなかったら、もしかしたら掴みかかっていたかもしれない。
そんな勢いだった。
「返せ…」
そんなつもりはなくても、自然と声音に怒気の色が含まれる。
でも彼女はそれを物ともせず、赤く塗った唇を不敵に歪ませると、
「あら、見られたら困るようなことでもあるのかしら?」
そう言って指を画面上に滑らせた。
「べ、別に何も…。兎に角返してくれ…」
「ふーん…、じゃあ聞くけど、“さとし”って誰?」
「えっ…?」
どうしてその名前を…?
当然だが、スマホには智のアドレスも番号も、それからメールのやり取りも残されている。
ただ、全てロックがかけてあるから、パスワードを入力しない限りは、開くことが出来ないようになっている。
しかも、パスワードは智の誕生日を暗号化した物になっている。
だから、いくら他人が俺のスマホに触れたとしても、智とのことが彼女に知られることはない筈…
なのにどうして…
「だ、誰だって良いだろ…」
「貴方は良くても私は良くないの。寝言で他人の名前を呼ばれて、気にならないわけないでしょ?」
「寝言…だって…? 俺…が?」
「そうよ? あんまり何度も同じ名前を呼ぶんですもの、気にならないわけないでしょ? それに…」
まだ何か言いたげな顔で、スマホに指を滑らせる。
俺は一向にスマホが手元に返って来る気配がないことに苛立ちを隠せず、彼女の細い手首を掴むと、その手から強引にスマホを奪い取った。
「何よ…、私はただ貴方が浮気でもしていないか確かめただけで、それがそんなに怒ること?」
俺が浮気…だって…?
笑わせるな…!
俺がどんな想いで智との別れを選んだのかも、未だに寝言で智の名前を呼ぶ程に、智への未練を断ち切れずにいることも…、何も知らしないくせに…
尤も、別れを決断したのは、彼女のためでも、ましてや自分のためでもない、彼女の腹に宿った小さな命のため…だけど…