君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第17章 generalpause
「そろそろ戻らないとな…」
軽くなった気持ちのまま腕時計に視線を落とすと、昼休憩が終わる時間まで後数分といったところで…
俺達はほぼ同時に、コンクリートの硬くて冷たいベンチから腰を上げた。
「ありがとな…」
空になったパックを袋に詰め込み、ゴミ箱に投げ入れる松本の背中に向かって言うと、松本は肩越しに俺を振り返り、
「ん、何が?」
と、悪戯っ子のような笑顔を浮かべた。
「何が…って、智のこと教えてくれてありがとうって言ってんのに…」
独り言のように呟いた俺の声が届いているのかいないのか…
松本はともすれば派手に見えそうな紫紺のジャケットを着た肩を、それは大袈裟なくらいに持ち上げて見せた。
つか、俺が渡した千円札しっかり財布に仕舞ってたけど…お釣り返せっての(笑)
まあでも、弁当代は少々高くついたけど、それで智のことがしれたのだから、プラマイゼロ…
いや、寧ろプラスの方が断然大きかった。
だからかな…、自然と顔が緩んでたんだろうな…
不意に足を止め、振り返った松本が、人差し指で俺の額をピン弾いた。
「…ってぇ…、何しんだよ…」
「あのさ、さっきも言ったと思うけど、結婚すんだよね?」
結婚…その一言に一気に現実へと引き戻される。
「分かってるって…」
「だったらそんな顔しちゃ駄目だよ」
「そんな顔って…、俺は別に…」
自分では普通にしているつもりでも、やっぱり松本の前では無理…ってことか…
「別に智に対して未練を持つなとは言わないけどさ、そこまであからさまに表情に出したらさ、奥さんになる人に失礼だよ…」
失礼…か…
確かにそうかもしれないな…
いくらお互いに望んだことではないとは言え、この先生涯を共にしようというのに、思いやりの欠片もない俺は、この上なく失礼で、最低な男なんだろうな…
「済まない…。智のこととなると、つい…。駄目だな、俺…」
後数ヶ月もしたら赤ん坊も産まれるのに、こんなんで本当に父親になんてなれるんだろうか…