君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第17章 generalpause
智と別れてからというもの、それまでの日々が全て夢か幻でもあったかのように、俺の生活は一変した。
何をするのも億劫で、曜日を問わず酒を浴びるように飲んで…
そんなことを続けているから、それまで無遅刻無欠勤が自慢だった筈が、遅刻を繰り返すようになり…
当然、同期の中ては常にトップをキープしていた営業成績は下がる一方で、気付けば松本にトップの座を明け渡していた。
半年も前から直属の上司に打診されていた昇格の話も、遂には途絶えた。
もう終わりだ…
会社なんか辞めてしまおうか…
そんなことを思わないでもなかったが、それでも俺を会社に繋ぎ止めていたのは、週に一二度しか会うことはなかったが、日を追うごとに大きくなる彼女の腹の子だった。
俺と、いずれ母親になるであろう彼女との間にどんな柵があろうと、子供には何の罪もないのだから。
俺は、産まれて来る子供のためだけに、居場所の無くなった会社に通い、ひと一人になった時に押し寄せて来るストレスを紛らすためだけに、酒に身を委ねた。
一見破滅的にも思えることではあったが、そうでもしなければ自分を保っていることが出来なかった。
たかだか恋人と別れたくらいで…?
傍から見た人間はそう言うんだろうな…
もし逆の立場なら、当然のように同じことを思ったに違いない。
でも俺の智に対する想いは、“たかだか”なんて言葉で片付けられる程小さくはないし、軽くもない。
その証拠に、俺は智のアドレスも、メールのやり取りでさえも、消すことなくスマホに残されているんだから…
きっとこの先も…
子供が産まれ、彼女を含めた三人での暮らしが始まった後でも、俺のスマホから智のアドレスが消えることは、おそらく無いだろう。
アドレスだけじゃない…
瞼を閉じれば浮かぶ智の笑顔も、
たった一度聞いただけの智の歌声も…
色褪せることはあっても、俺の記憶から消えることはないし、寧ろ募る一方…なのかもしれない。
それでも俺は良かった。
智の記憶と共に生きて行けるなら、それだけで良かった。