君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第15章 diminish
全てを話し終え、俯いていた顔を上げると、松本が咄嗟に顔を背けた。
まさか…、泣いてる?
「松…も…」
「それってさ、酷過ぎない? 何で応えたの? 何で智を抱いたの? そんなの…二人共辛くなるだけじゃんか…」
「それは…」
智がそう望んだから…、って今の松本に理解を求めたところで、松本が俺の思いを受け止めてくれることは、恐らく無いだろう…
智に求められた時、俺も今の松本と同じように考えたんだから…
「 忘れられんのかよ、 智のこと…」
「無理…だろうな…」
きっとどれだけ時間をかけようと、きっと俺の心から智が消えることはないだろう。
それくらい、智の存在は俺の中で色濃く住み着いている。
「でも結婚するんでしょ? 」
「まあ…な…」
「なのに智のことを想い続けるって…、相手に対しても、それから子供に対しても失礼じゃない? それに櫻井だって…」
「分かってる。分かってるけど、そうするしかないんだよ…」
今のところ彼女の方から結婚話を持ちかけられてはないが、子供が出来た以上、男としての責任はとらなくてはならない。
それが彼女と、彼女の腹にいる赤ん坊に対する、俺の義務でもあるから…
「裏切りだってことも分かってる。でも…それでも俺は智を想い続けるって…、智を抱いた時、そう決めたんだ」
この手で触れることも、この腕に抱くことさえ出来なくても、それでも俺は智を…
「そっ…か…。ただ…さ、相当苦しいと思うけど…、その覚悟はあるの?」
「勿論だよ…」
そうじゃなかったら、求められたからと言って智を抱いたりはしなかった。
きっと智も同じ…
お互いに愛し合った記憶を、心の片隅にでも残しておきたくて、本当は怖かっただろうに、俺に身を任せたんだろうから…
「愛し方をちょっと変えただけだよ」
「なんか…俺には良く分かんないけど、櫻井がそう決めたのなら、俺はもう何も言わない」
「…うん」
「でもひとことだけ言わせて?」
「なに?」
「絶対幸せになれよ? だってパパになるんだからさ」
パパ…か…
今はただただむず痒いだけの言葉だが、その内そう呼ばれることにも慣れる時が来るんだろうか…
そんなことを考えながら、視線を窓の方に向けると、眩しいくらいの日差しがカーテンの隙間から差し込んでいた。
『diminish』ー完ー