君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第15章 diminish
夕方、陽が完全に落ちる前に、俺は部屋を出た。
この時間を過ぎると、延滞料金を取られることになる。
微々たる金額だろうけど、ホテルのキャンセル料と併せたら、結構な額になってしまう。
この先のことを考えると、無駄な出費は極力抑えたい。
来客用の駐車場に停めっ放しになっていた車に乗り込む…が、借り物の車ってやつは乗り心地こそ悪くはないが、運転がしづらい。
もっとも、普段から車を運転する機会の少ない俺にとっては、どれもそう大して変わりはしないんだろうけど…
無事レンタカー屋に車を返却し、最寄りの駅から電車に乗り込む。
ラッシュ時間はとっくに過ぎているから、普段は滅多に座ることのないシートに座り、車窓に流れる景色をぼんやりと眺めていると、自分がとてもちっぽけな人間に思えて来る。
決して過ちを侵したわけじゃない…彼女とは結婚を考えた時期だってあったんだから…
それでも智と出会って、智のことを好きになって…それから…智を愛するようになって…
なのに俺は智を手を放した。
状況を考えればそうするしかない…って、そうすることが一番だ…って、そう思った。
結果…智を傷付けた。
俺はなんて狡い男なんだろう…、最低だな…
俺は揺れる吊り革を見上げ、フッと息を吐き出した。
それにしても…
松本には何て言おうか…
俺が智と旅行に行くことは当然松本も知ってるし、ひょっとしたら変な期待をしているかもしれない。
いや…、松本のことだから絶対してる筈だ。
なのに何て言えば?
アイツ…、ああ見えて案外智のことを気にかけてたし…
その松本に、
“元カノに子供が出来たから、智とは別れました”
とでも言えば良いのか?
いや…、いずれ分かることだとしても、今は口が裂けても言えない。
参ったな…
こんなことになるなら、松本に有給の理由を聞かれた時に、嘘でも良いから別の言い訳をすれば良かった。
そんなことをぼんやりと考えていた俺は、最寄りの駅を三つ過ぎたところで、漸く乗り過ごしたことに気が付いた。