君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第15章 diminish
遠くの方で、静かにドアの閉まる音がした。
ああ…、智が出て行ったんだ、ってすぐに分かった。
アパートまで送るって言ったのに…
今ならまだ間に合う…、俺はすぐに後を追おうと思った。
でも出来なかった。
玄関まで駆けて行き、シューズボックスの上に置いた車のキーまで手に取ったのに、俺は智の後を追うことが出来なかった。
いや、出来なかったんじゃない、”しなかった”んだ。
口にこそしなかったが、もう少しだけ一緒に…、と言葉少なに俺に訴えかけた智を、俺は何のために遠ざけたのか…
智が伸ばしかけた手を、俺はどうして掴まなかったのか…
全ては智に、俺への想いを断ち切って欲しかったからじゃないのか?
俺のことなんて、綺麗さっぱり忘れて欲しかったからじゃないのか?
なのに今更追いかけて、その手を掴んだところで何になる?
俺達はもう終わったんだ。
その事実はどうしたって変えられっこないのに…
俺は握りしめていた車のキーをシューズボックスの上に戻すと、開けっ放しになっていた玄関ドアに鍵をかけたと同時に、ともすれば溢れ出してしまいそうな自分の感情にも蓋をした。
リビングに戻った俺は、智がさっきまでいた筈の寝室のドアを開けた。
一瞬、そこにいる筈のない智の姿を探してしまう自分に気付いて、胸の奥がチクリと痛んだ。
どんなに探したって、智はそこにいやしないのに…
シーツだって、温もりすら残らないくらい、冷たくなってるのに…
それでも僅かに残る智の痕跡を求めてしまう自分はなんて愚かなんだろう。
自嘲気味に笑って、乱れた布団に手をかけたその時、不意に枕の上に置かれた一枚の紙が視界に飛び込んで来た。
「これ…は…?」
裏返しに置かれた紙を手に取り、ひっくり返してみる。
瞬間、頑丈にをかけた筈の胸の鍵は粉々に砕け散り、封じ込めていた感情が一気に溢れ出した。
『ありがとう。幸せになって』
綺麗な…まるで水が流れるような文字で書かれた小さな紙を握り締め、俺はその場に蹲り、声を上げて泣いた。