君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第14章 dolore
でも俺がどんなにゆっくり口を動かしても、翔さんには全然伝わらないみたいで…
いつもならそんなことないのに…ね?
俺は仕方なくテーブルの上に用意してあったメモ用紙とペンを手に取ると、やっぱり震える手で俺の言葉を綴った。
『俺達、終わりにしよう…』
「違っ…、どうして…」
翔さんが、元々大きな目を更に大きく見開いて、首を小さく何度も横に振る。
分かってるよ…
俺に言わせたくないんだよね?
でもね、俺が言わなきゃ、きっと翔さんの口からは言い出せないこと…俺は知ってるから…
だって翔さん…優し過ぎるから…
自分から別れを切り出せば、俺が傷付くって思ってるんだよね?
だから俺から…
俺の方から別れて上げるよ…
でも…
『最後に、一つだけワガママ言ってもいい?』
きっと最初で最後の我儘…
「そん…な…、最後とか…、頼むから言わないでくれ…」
俺を抱きしめようと伸びて来る手を拒み、テーブルに向かった。
『一度だけでいい…、抱いて欲しい…』
「さと…し…、本気で…?」
『うん…』
信じられないとばかりに声を震わせる翔さんに、小さく頷いて見せるけど、動揺しているのか、その目は激しく揺れていて…
『まだ…迷ってる?』
すぐには返事をくれないことに不安になった俺が見上げると、翔さんは苦しそうに顔を歪めていて…
やっぱりまだ迷ってるんだ…
そりゃそうだよ…ね…
俺だってその“答え”に辿り着くまで、凄く悩んだし、迷いだってした。
でも翔さんが旅行に誘ってくれた時に思ったんだ…
もし翔さんに求められたら…
仮に求められなくても…、翔さんが俺とは違う“答え”を出したとしても、俺は翔さんの意志を受け入れよう、って…
でも今は違う。
これで…
これが最後になるのなら、一度だけで良い…翔さんとの記憶を俺の身体に刻み付けて欲しい。
『もし、無理だと思ったら、途中で止めても良いから…。だから…』
そこまで書いて、とうとう堪えきれなくなった涙が、メモ帳の上にポタリと落ちた。