• テキストサイズ

君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】

第13章 coda


『まだ…迷ってる?』

すぐに“Yes”と言えない俺を、智の不安気な目が見つめる。

俺が智を抱く…

そのことに迷いなんてなかった。

寧ろ、旅行中にそんな関係になれたら…、なんて淡い期待だってしていた。

だから所謂“必需品”の類いも揃えたし、今だって俺のボストンバッグの中で、出番が来るのを今か今かと待ち侘びている筈だ。

ただ、どうしても不安だったんだ。

今まで女性としか経験して来なかった俺が、果たして同性である智に反応するのか、が…

俺が抱かれる分には、ただこの身を流れに任せておけば良いが、“抱く”となったら話は別で…

智を抱きたい、そう思い始めた時から、俺は常にその不安を抱えて来た。

今だってその不安は、当然ある。

だから…かな、とても困惑した表情を浮かべていたんだと思う…

『もし、無理だと思ったら、途中で止めても良いから…』

『だから…』

ポタリ…と、メモ帳の上に落ちる雫…

「ごめん…、違うんだ、そうじゃなくて…、俺はただ君をこれ以上傷つけてしまうのが怖くて、だから…」

俺はとうとう泣き顔に変わってしまった智の頬を両手で包むと、キツく噛み締めた唇を指でなぞった。

そしてそっと唇を重ねると、智の手からペンを抜き取った。

「おいで…?」

ペンを抜き取っても尚握ったままの手を包み、一本一本解きほぐすように指を絡めた。

『翔…さん…?』

涙で潤んだ目が俺を見上げる。

「ごめんね、智…。君をこんな風に泣かせたくはなかった…」

君にはいつも笑っていて欲しかった。

そしていつか、あの時聞いたあの歌を、今度は俺だけのためだけに唄って欲しかった。

でももうそれすらの叶えられない。

だったら…

「ベッド、行こうか…?」

『…うん…』

小さく頷いた智の額にキスをして、俺は智を抱き上げた。

キュッとシャツを握った手が、まるで俺の心臓まで握っているかのようで…

胸の奥がズキンと痛んだ。
/ 364ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp