君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第13章 coda
一瞬悪戯かと思った。
モニター画面にはエントランスの風景しか映っていなかったから…
だから…かな、妙な胸騒ぎを感じた。
俺は通話ボタンを押すと、
「はい…」
インターホンの向こう側に恐る恐る声をかけた。
…が、返って来る筈の声はなく…
やっぱり悪戯か…
通話ボタンに指をかけたその時、
「私よ。大事な話があるの。開けてくれない?」
聞き覚えのある声と、真っ赤に染められた長い爪で、長く伸ばした黒髪を掻き揚げる彼女の姿が、モニターの小さな画面に映し出された。
どうして…
「何の…用だ…」
このタイミングで現れた彼女に、苦々しく言い放つ。
でも彼女は気にもとめていない様子で…
「言ったでしょ? 大事な話がある、って…」
爪と同じ色をした唇の端を持ち上げた。
その表情に、俺の背中を冷たい物が伝った。
開けちゃいけない…
理由は分からない…、でも根拠のない予感だけが、俺にドアを開けることを躊躇わせた。
「俺には話すことはない。すまないが帰ってくれ…」
そうだ… 、彼女が何を言おうと、俺には話すことなんて何も無い。
それに俺には、何を於いても守りたい智との約束がある。
ここで無駄な時間を使うわけにはいかない。
「頼む…帰ってくれ…」
俺達はもう終わったんだ…、だかもう二度と俺の前に現れないでくれ!
何度目だろう、そう願ったのは…
なのにカ彼女は、そんな俺のささやかな願いをも打ち砕くような一言を言い放ったんだ…
「私、妊娠したの。貴方の子よ…」
と…
一瞬、目の前が真っ暗になった。
確かに彼女とは八年も付き合って来たし、肉体関係だって当然あった。
だから彼女が“妊娠”と言う言葉を口にすることは、何ら不思議なことでは無い。
だけど…!
「この間会った時は、そんなこと一言も…」
「そうね…、あの時はまだ私も半信半疑だったから…。そんなことより、早く開けてくれないかしら? 色々話し合わなきゃいけないでしょ?」
モニターの中で、彼女が妖しく笑った。